大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成8年(行ケ)140号 判決

神奈川県藤沢市湘南台5丁目36番地の5

原告

元旦ビューティ工業株式会社

代表者代表取締役

舩木元旦

訴訟代理人弁理士

島田義勝

水谷安男

東京都千代田区霞が関三丁目4番3号

被告

特許庁長官 荒井寿光

指定代理人

伊藤栄子

青木良雄

伊藤三男

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が、昭和63年審判第10537号事件について、平成8年4月26日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

訴外舩木元旦は、昭和57年2月17日、意匠に係る物品を「金属垂木用ジョイント」とする別紙第一(審決「別紙第一」と同じ。)表示のとおりの意匠(以下「本願意匠」という。)について意匠登録出願をした(意願昭57-6220号)が、昭和63年3月31日に拒絶査定を受けたので、同年6月15日、これに対する不服の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を昭和63年審判第10537号事件として審理した(なお、原告は、平成2年6月11日、上記訴外人から同出願に係る権利を譲り受け、同年6月25日に審判請求人名義変更届をした。)うえ、平成8年4月26日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年7月1日、原告に送達された。

2  審決の理由の要点

審決は、意匠に係る物品を「天井パネル用連結部材」とする別紙第二(審決「別紙第二」と同じ。)表示のとおりの意匠(意願昭50-11125号、昭和51年6月25日付けで拒絶の査定がされ、その後、同査定は確定した。以下「引用意匠」という。)を引用し、以下の理由により、本願意匠は、引用意匠に類似するものであり、したがって、意匠法9条1項に規定する最先の意匠登録出願人に係る意匠に該当しないから、意匠登録を受けることができないとした。

(1)  意匠に係る物品の共通性

「本願の意匠と引用の意匠とを比較すると、両意匠は、垂木材や天井パネル材に使用されるものであるが、建築物の天井や屋根を構築するため、それらの板体等に係わって、これらを支える構造材といえるもの、又は構造材に同一形状で嵌合してこれを連接して一体となって構造材を形成するものといえるものであり、その使用目的及び機能に共通するところがあるから、意匠に係る物品が共通するものである。」(審決書2頁15行~3頁3行)

(2)  本願意匠と引用意匠の共通点の認定

〈1〉 形態について

「その形態については、肉薄状に一体的に成型され、一定の断面形状を形成するものとし、その断面形状を、下方を開口した矩形山の両下端を外方へ折曲して水平状の鍔部を形成し、この鍔先の端部は上方内側へ細幅に折り返して、所謂シルクハット断面状の態様とした点が共通し、」(同3頁3~9行)

〈2〉 具体的な態様について

「具体的な態様においても、矩形山状部の高さと横幅が殆ど同寸である点が共通する。」(同3頁9~10行)

(3)  両意匠の差異点の認定

〈1〉 全体の長さについて

「一方、その全体の長さを、本願の意匠は横幅の略二倍半としたものであるのに対して、引用の意匠は長手方向へ連続するもの、すなわち長さを限定しない長尺材としたものである点に差異があり、」(同3頁11~14行)

〈2〉 鍔部について

「具体的な態様においても、鍔部について、本願の意匠は鍔幅を山状部の高さ及び横幅の略二分の一程度の長さとしているのに対して、引用の意匠は鍔幅を前者のそれよりやや短いものとしている点、本願の意匠は鍔先の細幅の折り返し部をやや大きく折り返しているのに対して、引用の意匠はやや小さい折り返しとしている点、」(同3頁15行~4頁1行)

〈3〉 切り欠きについて

「本願の意匠は左右折り返しの長手方向両端部に小さな切り欠きを設けているのに対して、引用の意匠は切り欠きを設けていない点に差異がある。」(同4頁1~4行)

(4)  両意匠の類否の判断

A 両意匠の要部

「上記の共通点及び差異点を比較して、意匠全体として総合的に観察すると、前記共通するとした態様は、両意匠の形態における骨格となるところを形成し、かつ、両意匠を特徴付ける形態上の基調をなすものであるから、両意匠の類否判断を支配する要部となるものである。」(同4頁5~10行)

B 全体の長さの差異点について

「これに反し、全体の長さ、材長が横幅の略二倍半長であるか長手方向へ連続する長尺材であるかの差異は、本願の意匠と引用の意匠との類否判断において、これを左右する決定的な要素とはならない。すなわち、本願の意匠は、上記したように、建築用構造材の継ぎ目部において、この構造材の形状と同一形状を保って嵌合して最終的には構造材と一体となって長尺の構造材を形成するものであり、この種建築用構造材、接続材等の分野において、一定の断面形状で長手方向へある程度の長さをもつ構造材は、これを使用する際、具体的な使用態様、相手材の選択、要求される強度等に応じて、長さを適宜変更して使用されるものであるから、この種意匠においての長さの選択の差異については、これらの点を考慮すると、格別評価すべきものでなく、本願の意匠についても、この長さを単に一定にしたものであって、特別に長尺材との差異を採り挙げて評価すべきものでもないから、類否判断を支配する要素とすることはできない。」(同4頁11行~5頁10行)

C 鍔部に関する差異点について

「具体的な態様において差異点として挙げた、鍔幅の長さの差異はその差異の程度が僅かであって目立たず、また、鍔先部の折り返し幅の差異は、共に端部を上方内側へ細幅で折り返したという共通する態様の中で見られるものであり、このように、建築用構成材、構造材、接続材の長手方向端部を細幅で折り返すことはよく知られており、特徴ある態様ともいえず、上記いずれの差異も格別看者の注意を惹かず類否判断の要素としては微弱なものである。」(同5頁10~19行)

D 切り欠きに関する差異点について

「本願の意匠の左右折り返しの長手方向両端部に設けられた切り欠きは、この種建築用構造材の端部折り曲げ部において、裁断面両端部の折り曲げ部分を小さく切り欠いて折り曲げ部を本体よりわずかに短くしている程度のものであり、本願の意匠の出願前より、このように、折り返し端部の裁断面両端部に切り欠きを設ける、この種のジョイント、継ぎ手構造が普通に知られていることから(例えば、意匠登録第287672号、実開昭53-38210第4図1)、本願の意匠独自の特徴として評価できるものでないことをも考慮すると、左右折り返しの長手方向両端部に切り欠きを設けたか否かの差異を採り挙げてこの点を然程高く評価することができず、いまだ両意匠を別異のものとする程の差異といえない。」(同5頁19行~6頁13行)

E 総合的評価

「そうして、これらの差異点を総合しても形態上の特徴を最もよくあらわす長手方向への断面形状の強い共通感を凌駕するものとはいえない。」(同6頁13~16行)

F 結論

「以上のとおり、本願の意匠と引用の意匠とは、意匠に係る物品が共通し、形態においても、その形態上の特徴を最もよく表す要部において共通するものであるので、前記した差異があるとしても、両意匠は互いに類似するものというほかない。」(同6頁17行~7頁1行)

第3  原告主張の審決取消事由の要点

審決の理由中、本願意匠及び引用意匠についての記載、本願意匠と引用意匠の各形態についての共通点及び差異点の認定は認めるが、両意匠が「意匠に係る物品が共通する」との点は争い、両意匠の対比における共通点及び差異点の評価、判断を争う。

審決は、本願意匠と引用意匠が「意匠に係る物品が共通する」との誤った判断をし(取消事由1)、両意匠の共通点及び差異点を総合して検討するにあたって、その評価、判断を誤ったため、本願意匠が引用意匠に類似しているとの誤った判断をし(取消事由2)、その結果、誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されなければならない。

1  取消事由1(物品の共通性についての判断の誤り)

(1)  本願意匠に係る物品(以下「本願物品」という。)と引用意匠に係る物品(以下「引用物品」という。)とは、具体的な使用目的(用途)及び使用態様(機能)を異にする非類似物品であるのに、審決はこの差異を看過し、両物品は、「その使用目的及び機能に共通するところがあるから、意匠に係る物品が共通するものである」と誤って判断したものである。

まず、本願物品は「金属垂木用ジョイント」であるのに対し、引用物品は「天井パネル用連結部材」である点で、両者は相違する。

本願物品の使用目的(用途)は、母屋と直交する方向で、かつ、母屋上の位置とは無関係な任意の位置で、断面ほぼシルクハット状、かつ、鍔部(フランジ部)に折り返し部がないように形成された長尺な金属垂木を長手方向に連続的に接続することにある。

そして、その具体的な使用態様(機能)は、折り返し部のない長尺な金属製の垂木のフランジ部を、本願物品のやや大きな折り返し部を有するフランジ部の間に挿入し、さらに対向する長尺な金属製の垂木の端部を本願物品の中央で当接、係止させるものである。すなわち、本願物品の機能は、上記のような接続方法を用いて長尺な金属製の垂木を本願物品により接続することによって、理論上は無限長の長尺な金属製の垂木の形態を得ることができるという機能である(甲第2号証の1、「使用状態を示す参考斜視図」、「使用状態を示す参考側面図」参照)。

このように、本願物品は、フランジ部に折り返し部のない長尺の金属垂木だけを母屋の位置とは無関係に、長手方向に複数本接続させるためのものであり、1つの用途と1つの機能を有する物品である。

これに対し、引用物品の第1の使用目的(用途)は、引用物品の上面に所要間隔ごとに取り付けた天井吊支捍などによって吊支された引用物品の左右に形成したフランジ部上に、引用物品の長手方向と直交する断面Ⅰ字状の連結部材を介して引用物品の長手方向に複数枚連結した長方形状の分厚い「天井パネル」を、引用物品の長手方向に対して左右幅方向に位置するように載置させたものであり、また、第2の使用目的(用途)は、引用物品のシルクハット形の逆チャンネル部内に、壁板や仕切り板の上端部を嵌合させて、屋内空間を仕切る「間仕切り部材」のジョイントとして用いるものである。

このように、引用物品は、多用途、多機能を有する物品である。

そして、物品の類否判断における「用途」という概念は、「建築物用及び構造物用構造材」のように曖昧かつ漠然とした抽象的上位概念としてとらえるのではなく、物品の目的、種類などに即して具体的に解釈すべきところ、上記のとおり、本願物品と引用物品は具体的な使用目的(用途)及び使用態様(機能)を異にするから、両者は非類似物品である。

(2)  特許庁の従来の審決例(昭和56年審判第12223号審決、同年審判第13550号審決、甲第17号証の1、2)における判断をみても、対比される両物品の具体的な使用目的、用途及び使用態様等について明らかに相違する場合は、両者は別異の非類似物品とされている。

したがって、物品の類否についての審決の判断は誤りである。

2  取消事由2(意匠の類否判断の誤り)

(1)  審決は、前記のとおり本願物品が引用物品と非類似である点を看過しており、その前提を誤っているため、審決の前示判断A~Fの点は、意匠の要部認定及び具体的な判断においても、総合的評価においても、それぞれ誤っているものである。

(2)  全体の長さの差異についても、本願物品は定尺物品であって、その全長はおよそ12cmであり、他方、引用物品の実施品の全長は4~5mと想定されるが、この長さの極端な相違は、その目的、機能に起因するものであって、意匠を1つのまとまった形状として捉えた場合、両者が類似する意匠であるとは到底考えられないし、長さ、寸法の点からも、別異の美感をもたらす意匠である。

(3)  本願意匠のフランジ部(鍔部)の折り返し部は、折り返し部のないフランジ部付きの長尺の金属性の垂木材を、母屋の取付位置とは無関係に複数本接続させるために、折り返し部のない垂木のフランジ部を挿入嵌合させて固定させるというジョイント本来の用途、機能を発揮させるための形状である。したがって、本願意匠のフランジ部挿入嵌合可能な大きさと形状を有する折り返し部は、引用意匠の従来より知られている小さな折り返し部とは本質的に目的、用途、機能が相違するのに、審決は、この点を看過している。

(4)  両端部に設けられた切り欠きに関して、審決が「普通に知られている」ものの例として列挙するものは、「樋継手」と「外装板の接続装置」を構成する「外装板」である。本願意匠については、本来、接手なら接手としての1つのまとまった意匠を対比の対象とすべきであるのに、審決は、引用すべき対象を上位概念である建築部材に及ぶ広範囲にまで広げ過ぎてしまい、その結果、1つのまとまった意匠として判断しえない物品と対比した点に誤りがある。

(5)  したがって、審決の前示類否判断の結論も、本願物品と引用物品の用途と機能が同一又は類似という前提をクリアしてこそはじめていえることであり、この前提に誤りがある以上、審決の判断は誤りである。

第4  被告の反論の要点

審決の認定判断は正当であり、原告主張の審決取消事由は理由がない。

1  取消事由1について

一般に、意匠の類否判断は、「物品」と「形態」についての両面から、その意匠の属する分野における経験則によって価値の共通を見定めて、総合的に判断されるべきであり、物品の共通性、類否については、その使用目的、使用方法、使用状態等に基づき用途や機能の共通性から総合的に判断され、形態の共通性、類否については、その共通点と差異点を総合的に評価して判断される。

本願意匠及び引用意匠の属する建築物用及び構造物用構造材(建築物用・構造物用鋼材、形鋼、棒鋼等)は、意匠法上において、長尺材として長さを限定せず、実際の使用に即して任意に選択して使用する一次加工材として扱っており、通常は、一定の断面形状をその意匠の要部として持っている特殊物品であって、実際に多岐の用途にわたって使用されている。

このうち、建築用に用いられる建築物用構造材に限っても、これが取引される場合、建築物の規模や使用目的や用途に即して、同一形態のものが選択され使用されうるという汎用性のある物品である。

これを本件についてみると、本願意匠の「金属用垂木ジョイント」と引用意匠の「天井パネル用連結部材」は、意匠に係る物品は一致するものでないとしても、その使用目的、機能等の関係からすれば、類似する物品と判断されるものである。

すなわち、両意匠の意匠に係る物品の本質を吟味すると、ともに建築物の広い面積部分を葺くパネル材に関連して、これを葺く(又は固定する)ためのいわゆる下地枠材若しくはパネル連結枠材に係わるものであって、それぞれに、建築物上層部の屋根や天井を構築するため、屋根材や天井パネル材等の板体に係わって、これらを支える建築物用構造材、又はこれらの建築物用構造材に同一形状で連接嵌合して一体となって建築物用構造材を形成するものであり、その使用目的、使用の具体的態様において共通する。

また、両者は、形態的には、いわゆるハット型(断面形状をシルクハット型とする特徴による)といわれる形態分野に属するものであって、ともに、長手方向左右端部に形成した鍔状部とするフランジ部に、屋根用パネル材、あるいは天井用パネル材等の建築物用構造パネル材を載置、連接し、保持して、建築物の広い壁面ともいうべきところを形成するに資する下地枠材としての建築物用構造材となるものであり、これらの機能をも共有する建築物用構造材ということができる。

なお、物品性判断において、用途若しくは機能が1つであるか、複数であるかによって物品が異なるものと判断すべきではなく、限定された物品の用途、機能が、多用途、多機能物品の用途、機能と共通もしくはそれに包含される場合は、その共通性の評価により、類似する物品か否かが判断されるものである。

したがって、両物品は、同一物品とはいえないとしても、類似物品の関係(範囲)にあるものである。

2  取消事由2について

(1)  本願物品と引用物品とが類似物品の関係にあることは上記のとおりであり、これを非類似として、審決がした意匠の要部の認定及び具体的な判断を誤りとする原告の主張は、前提を欠き失当である。

(2)  全体の長さの差異について、各種建築物用構造材としての長尺材においては、実質的に断面形状が創作の内容を現しており意匠の要部となるものであって、全体の長さに差異があるとしても、特に評価すべき特徴ということはできない。

原告自身、審判段階において本願意匠の全長は略25cmと主張していたのに、本件訴訟においてはこれをおよそ12cmと主張していることからも窺えるとおり、長さの点に格別の特徴があるということはできないし、一方、引用意匠は、「長手方向へ連続する」とされるものであって、ある特定した長さあるいは規格材長を有するものであり、使用時には任意の長さに限定して使用されるものであり、これを原告主張のように種々異なった規格材長の中で4~5mと想定すること自体、その長さに特別の特徴はないことを自認するものである。

(3)  鍔部(フランジ部)の幅の長さについては、その差異の程度はわずかであって目立たず、類否判断を左右する要素とはならないし、鍔先部の折り返し幅の差異についても、折り返しをやや大きくして別材との嵌合機能があるとすることに格別の特徴は認められず、類否判断を左右する要素とはならない。

(4)  両端部に設けられた切り欠きについては、周知技術として従来よりよく見られる態様にすぎず、格別に意匠の創作の現れたところとは評価できない。

また、審決の例示した「樋継ぎ手」と「外装板の接続装置」は、本願意匠の出願前より、建築物用構造材等の分野において、嵌合継ぎ手機能を有する物品の具体的態様として、折り返し端部において、小さく矩形状に切り欠きを設けることが広く知られていることを例示したものである。

(5)  したがって、審決の類否判断に誤りはない。

第5  証拠

本件記録中の書証目録の記載を引用する。書証の成立については、いずれも当事者間に争いがない。

第6  当裁判所の判断

1  取消事由1(物品の共通性についての判断の誤り)について

(1)  本願物品が「金属垂木用ジョイント」であるのに対し、引用物品は「天井パネル用連結部材」であり、この点で両者が相違することは当事者間に争いがない。

本願物品の使用目的(用途)は、屋根を支える金属垂木につき、母屋と直交する断面略ハット形状の金属垂木を母屋の位置とは無関係に長手方向に連続的に接続させることであると認められる(甲第2号証の1)。

そして、その具体的な使用態様(機能)は、原告主張のとおり、折り返し部のない金属垂木のフランジ部を、本願物品のやや大きな折り返し部を有するフランジ部の間に挿入し、更に対向する金属垂木の端部を本願物品の中央で当接、係止させるものであると認められる(同号証の各図面、甲第12号証の1、2)。

これに対し、引用物品の使用目的(用途)は、原告主張のとおり、天井吊支捍などによって吊支された引用物品の左右に形成したフランジ部上に、長方形状の分厚い「天井パネル」を、引用物品の長手方向に対して左右幅方向に位置するように載置させること、また、引用物品のシルクハット形の逆チャンネル部内に、壁板や仕切り板の上端部を嵌合させて、屋内空間を間仕切る「間仕切り部材」のジョイントとして用いることであると認められる(甲第9号証の2、第13、14号証)。

(2)  他方、本願物品及び引用物品の属する建築物用及び構造物用構造材は、実際に使用される場合、必要な長さのものを選択し、あるいは、必要な長さに切断して使用される一次加工材としての長尺物であり、実際に多岐の用途にわたって使用されていること、また、このような構造材にあっては、その長さの要素よりも、それが持つ一定の断面形状がその使用目的や用途に照らし重要な要素となるものであることは、原告も明らかに争わないところである。

そして、本願物品と引用物品とは、前者が垂木材に、後者が天井パネル材に使用されるものであるが、前記認定の用途、機能に照らしてみると、両者はともに、長手方向左右端部に形成した鍔状部とするフランジ部をその重要な構成要素とすることによって、それぞれに、建築物上層部の屋根や天井を構築するため、屋根材や天井パネル材等の板体に係わって、これらを支える下地枠材を形成するものであるから、その使用目的(用途)、使用態様(機能)において共通するものと評価することができる。

したがって、本願物品と引用物品が前記のような相違点を有するとしても、また、本願物品が1つの用途と1つの機能を有する物品であるのに対し、引用物品が、多用途、多機能を有する物品であるとしても、これをもって直ちに非類似物品であるとすることはできず、両者の用途、機能に共通のものが含まれる以上、両者は、意匠法上、類似の物品とみるのが相当である。

(3)  原告は、特許庁の従来の審決例(昭和56年審判第12223号審決、同年審判第13550号審決、甲第17号証の1、2)を挙げて、両物品の具体的な使用目的、用途及び使用態様等について明らかに相違する場合は、両者は別異の非類似物品とすべきである旨主張するが、これら従来の審決例における意匠は、意匠に係る物品において本件と異なるものであり、また、本件においては、本願物品と引用物品において、その用途、機能に共通性があるのであるから、上記「明らかに相違する場合」に当たるものともいえず、原告の主張は採用できない。その他、本件全証拠によっても、上記判断を覆すに足りる資料はない。

(4)  以上のとおり、本願意匠の「金属用垂木ジョイント」と引用意匠の「天井パネル用連結部材」は、意匠に係る物品として同一ではないものの、類似する物品とみるべきであり、審決の「意匠に係る物品が共通する」(審決書3頁2~3行)との判断は、これと同旨のものと認められるから、審決の判断に誤りはない。

取消事由1は理由がない。

2  取消事由2(意匠の類否判断の誤り)について

(1)  本件において、本願意匠と引用意匠を全体的に観察した場合、前記のとおり、両者は、形態的には、ともに肉薄状に一体的に成型され、一定の断面形状を形成するものとし、その断面形状を下方を開口した矩形山の両下端を外方へ折曲して水平状の鍔部を形成し、この鍔先の端部を上方内側に細幅に折り返して、いわゆるシルクハット断面状とする特徴を有し、前示のとおり、建築物用構造材にあっては、その長さの要素よりも、それが持つ一定の断面形状がその使用目的や用途に照らし重要な要素となるものであるから、意匠の類否判断においても、上記共通点は、その長さの要素よりも大きな視覚的役割を有し、これをもって、両者の美感を決定する要部というべきである。これと同旨の審決の要部の認定に誤りはない。

原告は、本願物品と引用物品とが非類似であることを前提に審決の意匠の類否判断を誤りと主張するが、原告の主張は、上記のとおり、物品の共通性に関する認識が相当でなく、採用することができない。

(2)  全体の長さの差異については、前記のとおり、建築物用構造材においては、実質的に断面形状が意匠の要部となるものであるうえ、本願物品が定尺物であるとしても、本願意匠を示す別紙第一によれば、縦方向(長手方向)の長さが横方向の長さの約2倍半であると特定できるのみで、これを原告主張のように全長がおよそ12cmと特定することはできず、一方、引用物品の長さについては、引用意匠を示す別紙第二によれば、これを原告主張のように4~5mと特定されるものではなく、ある一定の長さあるいは規格材長を有するものとして、使用時には任意の長さにして使用するものと解されるから、本願意匠と引用意匠の全体の長さの差異については、特に意匠の類否の判断において格別の特徴として評価すべきものではないというべきであり、この点に関する原告の主張は理由がない。

(3)  鍔部(フランジ部)の幅の長さについては、本願意匠と引用意匠を対比してみても、その差異の程度はわずかであって目立たず、類否判断を左右する要素とはならないというべきである。また、鍔先部の折り返し幅の差異については、確かに、原告主張のように、本願意匠において折り返し部をやや大きくしたことは、別材の折り返し部のない金属垂木との嵌合機能があることと関連すると認められるが、視覚を通じて美感を起こさせる意匠の観点からすると、単に機能の差異があることをもって直ちに意匠としての差異があるということはできないことは当然である。そして、一般に、建築物用構成材、接続材等の長手方向端部を細幅で折り返すことは引用意匠にみられるようによく知られているうえ、これに他の部材を挿入するための間隔を設けて折り返し部をやや大きく設けることは、前記意匠の要部としてのシルクハット型の断面形状の共通性及び矩形山状部の高さと横幅が殆ど同寸であるという具体的な態様の共通性の中においては、格別の特徴として特に看者の注意をひき、格別の美感、印象を与えるものとはいえないから、両意匠の類否判断を左右する要素となるものではない。

(4)  両端部に設けられた切り欠きについては、意匠登録第287672号公報(甲第18号証)、実開昭53-38210号公報(甲第19号証)、実開昭57-192317号公報(乙第40号証)によれば、建築物用構造材の分野で嵌合継ぎ手機能を有する物品によく見られる態様と認められ、全体の形態のうちにおいて、格別の美感を与えるものとはいえない。

この点につき審決の認定判断を論難する原告の主張は、要するに本願物品と引用物品とが非類似であるとの主張を前提とするものであり、採用することができない。

(5)  上記のとおり、両意匠の全体的な共通点及び具体的な共通点と対比すると、審決の認定した両意匠の差異点は、共通する基調に包含される部分的差異ないし微細な差異にすぎないというべきであるから、本願意匠が引用意匠に類似するというべきであり、これと同旨の審決の判断に誤りはない。

取消事由2も理由がない。

3  以上によれば、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。

よって、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 芝田俊文 裁判官 清水節)

別紙第一 本願の意匠

意匠に係る物品 金属垂木用ジョイント

説明 (1)背面図は正面図と同一のため省略する。

(2)右側面図は左側面図と同一のため省略する。

〈省略〉

別紙第二 引用の意匠

意匠に係る物品 天井パネル用連結部材

説明 底面図は平面図と、左側面図は右側面図と夫々対称に表われるため省略。

本願意匠は下長手方向に連続するものである。

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例